自由の国 ヴェネツィア/ベニス3 

塩野七生さんの作品群が好き。

『海の都の物語ーヴェネツィア共和国の一千年』

徹底した現実主義者、ヴェネツィア人たちの物語が大好きだった。

誕生から滅亡まで。

迷路のようなベニス、ヴェネツィアの街中を歩き回りながら、

そこに見ているのは、現実の観光客たちではなくて、

古のヴェネチア人たち。

石造りの建物、教会内の天井絵画やステンドグラスの荘厳さに圧倒される。

フランスもそうではあるのだが、やはり『ルネサンス発祥の地』イタリアだけあって重厚さが違う。

きっとフィレンツェなんかもっと凄いのだろう。

パリが軽く見える。

フランス宮廷文化なんて、もともとはフィレンツェからド田舎フランスへ嫌々嫁に来たカトリーヌ・ド・メディチがお抱えの料理人から何から皆連れてきて、そして広めたものなのだ。



『海の都の物語』 昔読んでいて、今手元にないのだが、未だに憶えているところがある。

キリスト教教会の権力が絶大で、魔女狩りの嵐が吹き荒れていた中世。

その中でさすがのヴェネツィアも、魔女裁判を要求するローマ法王に正面から刃向かうことはできなかった。にもかかわらずヴェネチアで魔女裁判が行われたことは結局一度もなかった。

さて、彼らはどう切り抜けたのか?

法王側との交渉で以下のふたつの条件をのませることに成功したのである。

ひとつは、魔女の容疑者を裁判にかけるかどうかの決定をする審議会のメンバーに教会側だけでなく数人のヴェネツィア人を入れること。もうひとつは、決定は『全員一致』でなされること。

そして一度たりとも審議は開催されなかったのである。なぜなら、審議の招集がかかるたびに、ヴェネツィア人メンバーの誰かが、病気になったり、身内がなくなったりしたからなのだ。

そうまでして彼らはヴェネツィア共和国民の信仰や言論の『自由』を守り抜いた。人権意識が高かったのか?

違う。

かの国は、キリスト教国とイスラム教国との交易の中継地点として成り立っていたのだ。異民族異文化の交差する国。経済を成り立たせ国を繁栄させるためには、何が何でも『自由』を護らなけらばならなかった。

フランスなどの魔女狩りから逃げてきた人は、ヴェネツィアを目指した。あの国にたどり着ければ助かる。かくまってくれた人の誰もが言ったという。「ヴェネツィアへ行け」と。

私は、このヴェネツィア人たちの『自由』意識が今時の甘ったるい似非ヒューマニズムからではなく、国家存亡を賭けた徹底したリアリズムからきているところが好き。当時の王権をはるかに凌いでいた強大なローマ教会権力を相手にした巧みな外交術。

…惚れ惚れする。



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by iroirohitorigoto | 2017-09-19 06:46 | 出不精な私でも旅をする